平成16(ワ)12032  商標権侵害訴訟(平成17年12月8日大阪地方裁判所)

事案の概要と争点

 本件は、原告が「中古車の110番(中古車の文字上に「クルマ」との読み仮名つきのもの)」商標権を有しているところ、被告会社が、自社のHPのトップページを表示するためのhtmlファイルにメタタグとして、「<meta name=”description”content=”クルマの110番。輸入、排ガス、登録、車検、部品・アクセサリー販売等、クルマに関する何でも弊社にご相談下さい。”」と記載していることが原告の商標権の侵害に該当するとして争われた事案です。

 結果としては商標権侵害を認めましたが、ここで取り上げるのは、htmlファイルにメタタグとして(description部分に)記載されていたものが商標権の侵害となるか否かという点です。なぜ、これが問題になるかというと、メタタグ部分の記述はHP自体には表示されないからです。すなわち、メタタグというものは、直接HP中に表示されるものではなく、description部分の記述は、検索サイト等で検索した際にタイトルの下に表示される説明用の文章に過ぎず、キーワード部分の記述も、検索サイト等で検索する際にヒットしやすくするためのワード群に過ぎないからです。

判決とコメント

判決では、

しかしながら、・・・、インターネットの検索サイトの1つであるmsnサーチにおける、被告サイトのトップページの説明は、「クルマの110番。輸入、排ガス、登録、車検、部品・アクセサリー販売等、クルマに関する何でも弊社にご相談下さい。」というものとなっており、本件標章1がその冒頭に位置していることに照らせば、本件標章1は、被告会社の役務について、これを表すものとして使用されているものと認めることができる。

と述べ、まずdescription部分の記述中の本件標章1(「クルマの110番」)と役務との関連性を検討し、被告標章が役務についての使用であると認定しました。商標は商品や役務についての使用であることが必要であり、これが否定されれば、そもそも商標としての使用にはならず商標権侵害は成立しません。続けて、

・・・、インターネット上に開設するウェブサイトにおいてページを表示するためのhtmlファイルに、「<metaname=”description”content=”~”>」と記載するのは、インターネットの検索サイトにおいて、当該ページの説明として、上記「~」の部分を表示させるようにするためであると認められる。

と述べ、descriptionの記述がインターネット検索サイトにおいてサイトの説明のために表示されるものであることを認定しました。その上で、

そして、一般に、事業者が、その役務に関してインターネット上にウェブサイトを開設した際のページの表示は、その役務に関する広告であるということができるから、インターネットの検索サイトにおいて表示される当該ページの説明についても、同様に、その役務に関する広告であるというべきであり、これが表示されるようにhtmlファイルにメタタグを記載することは、役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為にあたるというべきである。

と述べ、descriptionの記述も、それが表示されるように記載されている限り、役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為にあたると述べました。そして、本件では検索サイトで検索した際に、被告サイトのトップページの説明としてdescriptionへの記述が表示されているとして、商標の使用にあたると認定されました。また、被告側は被告サイト中に被告標章の表示がないことを理由に侵害が否定される旨も主張しましたが、

しかしながら、ある事業者が、複数の標章を並行して用いることはしばしばあることであるから、インターネットの検索サイトにおけるページの説明文の内容と、そこからリンクされたページの内容が全く異なるものであるような場合はともかく、ページの説明文に存在する標章が、リンクされたページに表示されなかったとしても、それだけで、出所識別機能が害されないということはできない。

と述べ、表示がなかったとしても内容が全く異なるような例外的な場合を除いて出所表示機能が害されるため商標権侵害となると述べています。

 このように本裁判例では、メタタグdescriptionの記述が商標権侵害となると判断しましたが、descriptionの記述が何でも商標権侵害に該当すると言っているわけではありません。descriptionの記述内の標章の位置づけ(商品・役務としての使用か否か)、descriptionの記述が検索サイトを利用することで実際に表示されるのか、descriptionの記述と実際のサイトの中身とどのような関係にあるのか、という点なども検討した上で結論を導いています。また、メタタグkeywordの記述については何ら判断されていません。

 特にkeywordについては、検索サイトを利用することで実際に表示されないため商標権侵害となるかは微妙な問題となります。商標法は、自他商品識別機能、出所表示機能の発揮の前提として視認性を要求していると思われ、表示されないものについて商標権侵害とするのかはハードルが上がる気がします(実際に否定されている方が多いと思います。)。keyword中に他人の登録商標を記述し、検索結果を上位にあげ、他人の登録商標に化体した信用をただ乗りするという行為を容認していいのか、また、検索利用者が登録商標をキーワードに検索しているにもかかわらず侵害者の商品を紹介するHPが検索上位にヒットしてしまうと出所混同を容認してよいのかという価値判断が出てきます。法改正により音の商標も登録されることになりますので視認性という概念に捉われず積極的に商標権侵害とすべきではないかと個人的には思います。

注 2018年現在、メタタグkeywordについては、商標権侵害を否定する地裁の判決が出ています。