平成26(行ケ)10090  審決取消請求事件(平成26年9月17日知的財産高等裁判所)

事案の概要と争点

 この事件は、マスメディアを一時賑わわせたもので、大阪で当時立ち上がっていた政党「大阪維新の会」(以下、「政党維新」といいます。)とは無関係な有名な個人発明家の方(以下、「Aさん」といいます。)が、政党維新に先駆けて「日本維新の会」という商標(標準文字)を出願したというものです。その後、あまり報道されていませんが、審査において4条1項7号違反(公序良俗違反)で拒絶査定となり、拒絶査定不服審判において4条1項6号違反(非営利公益団体を表示する著名標章と同一類似商標)の新たな拒絶理由が通知され、結果として拒絶審決となり、それに対して取消訴訟を提起したという事案です。

 本件では、Aさんの商標出願の拒絶査定の時点には、まだ「日本維新の会」からなる政党は正式に存在しておらず、拒絶査定不服審判中に「日本維新の会」が政党として届出がなされたという事実関係がありました。審決は、拒絶審決の時点において「日本維新の会」が非営利公益団体を表示する著名標章であるとして4条1項6号違反としました。原告は、6号の判断基準時は拒絶査定時であり、仮に基準時が拒絶査定時でない場合であっても審決取消訴訟の口頭弁論終結時が基準時であり、いずれにせよ審決時点に「日本維新の会」が存在することを前提に判断した審決には誤りがあると主張しました。結果としては、審決に誤りがなく請求棄却です。

判決内容とコメント

 判決は、4条1項6号の基準時については、以下のとおり審決時が基準となる旨を判示しました。具体的には、まず4条1項6号の趣旨を

・・公的機関等の権威及び信用を保持するとともに,出所混同の防止により需要者・取引者の利益を保護するものと解される。

 と述べ、4条3項の趣旨を

同条1項各号の該当性の有無に係る判断の基準時を,最終的に当該判断をする時点,すなわち,原則として「商標登録査定時」又は「拒絶査定時」,拒絶査定に対する審判の請求があった場合には,「審決時」とすることを前提として,同条1項各号のうち,出願時には該当性が認められず,その後に出願人が関与し得ない客観的事情の変化が生じたために該当するに至った場合,当該出願人が商標登録を受けられないとするのは相当ではないものにつき,判断の基準時の例外を定めたものと解するのが相当

と述べた上、

・・商標法4条1項6号の趣旨及び同条3項の趣旨に加え,同項が判断の基準時の例外を認めるものとして掲げる事由に商標法4条1項6号は含まれていないことに鑑みれば,同号該当性の有無に係る判断の基準時は,審査官による商標登録出願の審査(同法14条)の際には査定時,拒絶査定に対する審判の請求があった場合(同法44条)には,審決時とすべきである。

と判示し、従来と同様の判断を示しました。この点についておよそ予想された結論であり、特段コメントはありません。審査と審判は続審であり、審査から審判に移行したとしても、審査の判断の妥当性だけを検証するのではなく、審判においてさらに実体審理がなされる以上、審判請求した場合には審決時点で判断するというのは至極妥当かと思われます。さらに判決では、審決後の事情を考慮できるか否かということについても踏み込み、

審決取消訴訟は,裁判所において,特許庁における審判官の合議体(商標法56条1項,特許法136条。以下「審判合議体」という。)がした審決の瑕疵の有無を事後的に判断する訴訟手続であり,審理の直接の対象は,商標権等の権利の存否ではなく,当該審決自体の違法性の存否,すなわち,当該審決につき,同審決がなされた時点において瑕疵があったか否かということに尽きる。このことは,裁判所において,審決取消訴訟を提起した原告が主張する取消事由に理由があるものと認めた場合であっても,自ら権利の存否を判断することはせず,判決において当該審決を取り消すにとどまり,同判決が確定したときは,特許庁の審判官においてさらに審理を行うとされていること(商標法63条2項,特許法181条)からも,明らかといえる。したがって,審決取消訴訟においては,原則として,当該審決時までの事情に基づいて同審決の瑕疵の有無を判断すべきであり,同審決後に生じた事情は考慮すべきではない。

と述べ、審決取消訴訟の構造論から、審決後の事情の考慮をも否定しています。この点は、引用はしませんがさらに拒絶査定不服審判との構造の違いとの比較まで丁寧に行っています。審決後において事情変更があり、拒絶理由が解消したのであれば、わざわざ出願し直す手間を考えれば(再出願したら登録されるはず)、審決を取消、審判へ差し戻した上で、登録してもよいのではないかという考え方もありそうですが、審決取消訴訟は、審査、審判の続審とは異なり、審決の違法性を争うという特殊な性格を有しており、かつ、審判請求した際に拒絶査定時ではなく審決時を基準とすべきとの考え方との整合も勘案すれば、このような結論になるのは致し方がないのだと思います。