商標権侵害の差止 

 商標権者であれば、商標権を侵害している者に対して、商標権侵害の停止、すなわち商標の使用の差止を求めることができます。商標権侵害の差止請求については、行為者側には故意も過失も不要です。

 商標権侵害の場合の損害賠償というのは損害不発生の抗弁により損害が0ということで、商標権侵害と認定されたとしても棄却されることもありますが、差止請求については、日本のいずれかにおいて、現に商標権侵害行為を継続していれば、それが遠方であっても、その差止が認められるのが原則です。商標権の効力は、日本全国におよび、第三者の使用を排除することが可能となります。もちろん、既に商標権侵害行為を停止しているようなケースでは差止自体は認められないケースが多く、商標権が存続していないような場合、商標権の権利行使が権利濫用となるような場合には当然商標権侵害の差止は認められません。

 商標権侵害の差止は通常は商標権侵害の警告段階で要求しますが、これに相手方が従わなければ、商標権侵害の差止請求訴訟を裁判所へ提訴することになります。商標権侵害の差止請求訴訟は知財という特殊な領域であることから、商標等の知的財産に詳しい弁護士が代理人となって対応することが多いのが実情です。

 また、商標権侵害の差止請求に際して、侵害物品の廃棄等、侵害予防に必要な行為を請求することができますが(商標法36条2項)、商標侵害の予防に必要最小限の行為が認められるものであり、通常は商標だけを抹消するなどの対応が可能ですので、商標権侵害物品の廃棄が認められるのはハードルが高いと思います。なお、裁判ではなく弁護士名の入った商標権侵害警告書送付の段階では、商標の使用中止に加え、商標権侵害物品の廃棄を求められることが多く、これに関連するものとしては侵害物品の回収、侵害物品の商標権者への提出なども商標権侵害の警告書に記載されていることが多いです。この警告書に対する対応については別途「商標権侵害警告への対応」にて説明しております。

商標権侵害の損害賠償

 商標権侵害行為を故意又は過失によって行うと、不法行為に該当し損害賠償責任を負うことになります。商標権侵害の損害賠償請求は、通常民法709条に基づいて行うものであり、請求する側(商標権者)は、商標権侵害訴訟において、故意過失、商標権侵害事実、損害発生、損害額、因果関係の主張立証が必要となりますが、商標権侵害等の無体財産権侵害やその損害の立証が困難なため、商標法中にも各種の立証軽減規定が設けられています。

 具体的には、たとえば、商標法には、過失の推定規定があり、商標権侵害した者については通常は商標を使用する前に商標登録されているか否かを調べる義務があるとして、原則として過失が推定され、過失がなかったことを商標権侵害者側が主張立証する必要があります。弁護士や弁理士による商標権非侵害の鑑定書等の作成していた場合であっても過失があった点の推定が覆らないのが通常ですので、この点ではなかなか争えません。また、商標権侵害による損害の額というのは、非常に算定が困難なため、損害額の立証責任軽減規定などがあり、相手方の売上や利益から算定できるような規定もあります。他方で、商標権侵害者側が損害発生していないことを立証すれば(損害不発生の抗弁)、商標権侵害の損害賠償請求を負わないケースもあります。このあたりは民法の特則として規定されており複雑ですので、具体的な点は商標権侵害に詳しい弁護士へ相談されたほうがよいかと思います。

 商標権侵害の損害賠償請求は商標権侵害の警告段階でも要求することありますが(警告段階では要求しないケースもあります。)、これに相手方が従わなければ、商標権侵害の差止請求訴訟と併せて損害賠償も求めて裁判所へ提訴することになります。商標権侵害訴訟は損害賠償であっても、知財という特殊な領域であることから、やはり商標等の知的財産に詳しい弁護士が代理人となって対応することが多いのが実情です。