COMEX商標事件(結合商標の類否判断)

平成 27年 (行ケ) 10012号等 審決取消請求事件

(平成27年6月9日知的財産高等裁判所)

事案の概要と争点

 本件は、被告の登録商標(SENT COMEXからなる商標、登録第5517417、本件商標)に関する商標法53条1項に基づく不正使用取消審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は、①引用商標(COMEX)と使用商標(SENT COMEX等)の類否判断の適否(使用商標の分離観察の可否)と②引用商標の周知性についての判断の適否である。

判決内容とコメント

 まず、引用商標の周知性について裁判所は、事実認定した上で、

 「上記認定事実によれば,引用商標は,一定の読者を有し,発行部数も相応のものと思われる有名ファッション誌で取り上げられているものの,当該各誌上,多数のブランドの商品の1つとして特定の頁に掲載されているにすぎず,また,掲載の頻度も決して高くなく,全面的な広告等も行われておらず,購読者に注目され,記憶にとどまるほどであったとは認められない。さらに,原告は,COMEX商品の直営店を含め,販売店が63店舗あると主張するが(証拠上54店舗しか確認できないことは上記のとおりである。),靴屋を含めた靴の販売店全体に占める割合としてCOMEX商品の販売店舗数が多いとは必ずしもいえず,直営店以外の販売店では,多数のブランドの商品を同時に取り扱うのが一般的であり,引用商標が,特に顧客の記憶にとどまるような形態で展示されているか否かも不明である。しかも,原告が,ファッション誌等において独自の宣伝広告を展開していることを示す証拠はなく,引用商標を表示するCOMEX商品が,国産のハイヒールブランドであることによって高い注目度を得ていることに関する証拠もない。そもそも,カジュアル,フォーマルといった多種多様なものを含む婦人靴市場において,ハイヒールに限定した独自市場が存在するのか否か,その中で,COMEX商品が上位のシェアを占めるか否かについては,いずれも判然としない。したがって,これらの事情を総合すると,引用商標には一定の知名度があるとしても,関西地方一円や全国規模で著名であるとまでは認められず,この点において,審決の引用商標の周知性に関する判断に誤りはない。」

 とし周知性は認めませんでした。単に雑誌広告したというだけではなく、その広告がどの程度意味があるのか(寄与しているのか)、販売店舗数が多数に上っている場合でも、その中で本件商品がどのような位置づけにあったのかなどを検討し、また、本件ではハイヒール市場だけで判断すべきことを立証することができず、婦人靴市場全体の中での判断となりました。周知性は主張及びその立証が重要となります。商標は知財分野ですので、その法律的な知識については、弁護士よりも弁理士のほうが持っています。それ故、弁理士さんが主導しているケースが多く見受けられます。但し、周知性は事実認定の問題ですので、普段から民事訴訟で事実認定の問題を扱っている弁護士に一日の長がありますね。

 次に使用商標と引用商標の類否判断(混同の有無)についてですが、引用商標は、「COMEX」からなるものであり、欧文字を一連に等間隔では横書きで配列されており語数も少なく外観上、全体として認識され、「コメックス」という称呼が生じ、さらに、特定の観念も生じないと認定されておりますが、この点については、特に大きな問題はありませんので説明を省略します。そして、使用商標である「SENT(Sent) COMEX(Comex)」が一体的に評価されるのか、分離観察され、「COMEX(Comex)」部分だけを要部として捉えられるのかというのが問題となりました。この点について裁判所は、

 「使用商標において,外観上,「SENT(Sent)」と「COMEX(Comex)」は,同じフォント同じサイズで記載され,一連にまとまりよく書かれており,いずれかに比重があるとはいえないから,一体的に認識される。なお,上記のとおり,「SENT(Sent)」と「COMEX(Comex)」の間に若干の隙間があり,使用商標6及び7では,「Comex」の冒頭が大文字で表記され,その前に一応の区切りがあるといえるが,一体的に認識するのが困難となるほど分離されて視認されるわけではない。また,「SENTCOMEX(SentComex)」を称呼した場合の「セントコメックス」の語数は8語であり,促音を含むことから,一連で称呼できる程度の長さである。さらに,観念について,「SENTCOMEX(SentComex)」を一連のものと認識した場合には,特定の観念が生じないと解される。なお,「SENT(Sent)」と「COMEX(Comex)」とを区分した場合には,前者の「Sent(セント)」は,「Send」の過去形又は過去分詞形であり,本件指定商品の需要者である一般消費者及びCOMEX商品の需要者である比較的若い女性にとって,その日本語訳である「送った」又は受動態として「送られた」という意味をもって理解されると考えられるから,それに即応した観念が生じるものと解される。他方,後者の「Comex(コメックス)」は,上記のとおり,一般的には造語として認識されると考えられ,特定の観念が生じないものと解される。そして,これらを踏まえて検討すると,上記2語は,相互に意味上の関連性は認められない上,前者のみからの観念で全体を認識することは困難であるから,結局,使用商標は全体として特定の観念が生じないものといえる。」

 とし、使用商標は、外観上一体的に認識され、「セントコメックス」と一連で称呼でき、特定の観念は生じないと認定しました。このように使用商標を認定されると、引用商標とは外観上、称呼上、観念上いずれも相紛れるおそれはないため、混同を生じないとの判断につながり、実際本判決でも、

 「使用商標と引用商標を比較すると,外観は,「SENT」(Sent,セントを含む。)の文字の有無という違いがあり,その結果,構成文字数の違いも明らかである。また,称呼は,「セント」の音の有無という違いがあり,全体の音数に明らかな違いがあるから,区別できる。そして,使用商標については,何らの観念が生じず,観念をもって引用商標と相紛れるものではない。」

 と認定されました。本件では、原告は、最高裁平成20年のつつみのおひなっこや事件の規範等を主張し、「SENT(Sent)」と「COMEX(Comex)」との間にスペースがあること、全部を称呼すると冗長であること、「SENT(Sent)」部分に出所識別標識としての観念が生じず、語彙やその周知性からすれば「COMEX」に注意を惹かせるものであること等を理由に使用商標から「COMEX」及び「Comex」部分を抽出して判断を行うべきとの原告の主張は排斥されました。このような事件はよくある争いであり、全体としての一体性の評価を基本として、「SENT」部分と「COMEX」部分のそれぞれの識別力の有無、強弱等を考慮して結論が出されるものであり、事案によって結論は変わります。本件事案の結論は個人的には妥当だと思いますが、一つの事例として紹介しました。

 

 

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