湯ーとぴあ商標事件(結合商標の類否)

平成 27年 (ネ) 第10037号 商標権侵害行為差止等請求控訴事件

(平成27年11月5日知財高等裁判所)

事案の概要と争点

 本件は「入浴施設の提供」を指定役務とする商標権を有する被控訴人が控訴人の運営する入浴施設において使用される標章が商標権侵害に該当すると主張して差止や損害賠償等を求めた事案であり、原審判決では、被告標章は原告商標と類似し被告の行為は商標権侵害に該当するとして請求を一部認容したため、控訴された事案です。

判決内容とコメント

 本件での大きな争点は、原告商標と被告標章の類否か否かです。原告商標と被告標章は以下のものでした。

湯ーとぴあ事件 (上記画像は一審である東京地裁平成25年(ワ)第12646号判決より引用)

まず、類否の判断基準としては、最高裁で示された

「商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に,その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかも,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である」

「また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められる場合においては,その構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは,原則として許されないが,他方で,商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない場合などには,商標の構成部分の一部だけを取り出して,他人の商標と比較し,その類否を判断することが許されるものと解される」

との基準を示しています。その上で、原告商標の上段部分と下段部分を分離して観察することができるかを検討し、

「・・・原告商標は,その外観上,上段の「ラドン健康パレス」の部分と下段の「湯~とぴあ」の部分とから成る結合商標と認められるところ,その文字の色及び大きさの違い,その配置態様によって,一見して明瞭に区分して認識されるものであるから,これらの二つの部分は,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分に結合しているものということはできない。」

と述べ不可分的に結合していないとして分離観察の可能性を残しました。その上で、二つの部分についての識別力を検討し、下段の「湯~とぴあ」の部分は,確かに「ユートピア」の「ユ」を「湯」に置き換えた造語であり、その文字が上段の文字よりもはるかに大きく目立つ色彩,態様で示されているから一見識別力が強いとも思えるのですが、これを否定しました。具体的には、インターネット検索によれば、全国には「湯ーとぴあ」又はこれに類する語を含む名称を有する入浴施設として原告施設及び被告施設のほかにも多数存在し、「湯」の漢字を含まないが「ゆうとぴあ」と称呼する文字列を含む名称の入浴施設もさらに多数存在すると認定し、さらに入浴施設の提供を指定役務、称呼を「ユートピア」とする7件の商標登録がなされていることを事実認定しました。その結果、

「以上の認定事実によれば,「ゆうとぴあ」(「ユートピア」)と称呼される語は,「湯」の漢字を含む場合であると,「湯」の漢字を含まない場合であると,いずれの場合であっても,入浴施設の提供という役務においては,全国的に広く使用されているということができる。したがって,原告商標のうち,下段の「湯~とぴあ」の部分は,入浴施設の提供という指定役務との関係では,自他役務の識別力が弱いというべきであるから,取引者又は需要者をして役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるということはできず,この「湯~とぴあ」の部分だけを抽出して,被告標章と比較して類否を判断することは相当ではない。」

として、下段の「湯~とぴあ」部分は、取引者又は需要者をして役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるといえず、分離抽出できないとしました。他方で、上段の「ラドン健康パレス」の部分については「ラドン」「健康」「パレス」といういずれも一般的な単語を繋げたものであり温泉施設の名称の中で用いられた場合には「ラドンを用いた健康によい温泉施設」という程度の一般名称的な意味を示すにすぎず入浴施設の提供という指定役務との関係では自他役務の識別力が弱いとしました。このように原告商標は上下段とも識別力が弱いことを認定した上で、

「そうすると,原告商標の上段部分の「ラドン健康パレス」及び下段部分の「湯~とぴあ」の各部分は,指定役務との関係では,いずれも出所識別力が弱いものであって,両者が結合することによってはじめて,「ラドンを用いた健康によい温泉施設であって,理想的で快適な入浴施設」であることが明確になるものであるから,原告商標における「ラドン健康パレス」と「湯~とぴあ」は不可分一体として理解されるべきものである。したがって,原告商標については,上段部分の「ラドン健康パレス」と下段部分の「湯~とぴあ」の部分を分離観察せずに,全体として一体的に観察して,被告標章との類否を判断するのが相当である。」

と述べ、両者が結合することによって識別力を発揮するとし、分離観察を認めず、識別力が弱いものが結合した場合には、事案によっては不可分一体のものとして全体観察されるということが示されました。その後、被告標章についても同様の手法で分離観察の可否を検討し、被告標章については、上段の文字「湯~トピアかんなみ」と下段の図形等と対比すると、上段の文字部分のみ分離観察が可能としましたが、上段部分の「湯~トピアかんなみ」の文字は「湯~トピア」と「かんなみ」は取引上不可分一体に結合しているとは考えられないものの原告商標同様に「湯~トピア」と「かんなみ」いずれも識別力が弱いため、両者が結合することによってはじめて「函南町にある,理想的で快適な入浴施設」であることが明確になるものであるため被告標章における「湯~トピア」と「かんなみ」は不可分一体として理解されるべきものとしました。結果、類否の判断対象は、原告商標は上段の「ラドン健康パレス」の部分と下段の「湯~とぴあ」と一体となったもの、被告標章は上段部分「湯~トピアかんなみ」ということになり、 

「原告商標と,被告標章のうち強く支配的な印象を与える部分である「湯~トピアかんなみ」とを対比すると,原告商標からは,「ラドンケンコウパレスユートピア」の称呼及び「ラドンを用いた健康によい温泉施設であって,理想的で快適な入浴施設」という程度の観念が生じ,被告標章の「湯~トピアかんなみ」の部分からは,「ユートピアカンナミ」の称呼及び「函南町にある,理想的で快適な入浴施設」という程度の観念が生じることが認められるから,原告商標と,被告標章のうち強く支配的な印象を与える部分とは,称呼及び観念を異にするものでありまた,外観においても著しく異なるものであることが明らかである。」

と述べ、さらに原告商標及び被告標章にはいずれも「ユートピア」と称呼される「湯~とぴあ」又は「湯~トピア」の文字部分が含まれている点についても、

「原告商標と被告標章との外観上の相違点,原告施設及び被告施設以外で,「湯ーとぴあ」又はこれに類する名称を用いた施設が全国に相当数存在すること,被告施設の所在地,施設の性格及び利用者の層などの事情をも考慮すれば,原告商標と被告標章とが,入浴施設の提供という同一の役務に使用されたとしても,取引者及び需要者において,その役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがあると認めることはできない。」

と取引実情を考慮して、出所混同のおそれがあるとは認められないとして、非類似となり、一審と控訴審で判断が分かれる結果となりました。一審と控訴審で判断が割れた理由は、「湯~とぴあ」の部分の識別力の強さです。控訴審では、インターネット検索結果や併存登録されている点を重視し、「湯~とぴあ」部分の識別力を弱くみました。その結果、原告商標は一体として、被告標章の上段部分も一体として評価されると事実認定に至っています。結合商標については、類否の対象となるものが何かによって結論が大きく異なりますので、全体観察か分離観察可能か否かがいつも争われます。

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