商標登録出願中または商標登録後に住所変更する場合、名義を変更(つまり譲渡)する場合(相続、会社合併等含む。)、専用使用権、通常使用権、質権などを設定したい場合は、いずれも特許庁の原簿へ登録することが必要となります。これらの登録手続は、司法書士が扱う不動産や会社登記手続に似たところがあり、かなり細かいことまで規定があり、書式等も決められています。これらの手続については、特許庁手続に精通している弁理士や弁護士が行うのが通常です。

 以下、商標に関する特許庁等に対する各種手続についてご説明させていただきます。

商標に関する住所変更、名称変更手続等

 商標は、一度登録されると存続期間が10年と長いため、その間に権利者の住所が移転するというケースは珍しくありません。しかし、住所変更を行わなくても権利がなくなるわけではないため特に支障がないことが多いかと思います。実際、本店所在地が変更になって放置されているケースも散見されます。

 たしかに、それまで住所変更をしなくても何もなくスムーズにいくこともありますが、中には、突然、第三者がライセンスをして欲しいと思って権利者に連絡をしようとしても連絡がつかなかったり、あるいは、出願中のものについても代理人が付いていない場合には、特許庁からの何らかの通知(登録査定等)が送達されず(代理人が付いてる場合、通知は代理人弁護士や弁理士に送付されます。)最終的に登録まで至らないという可能性もあります。また、自らが権利行使をする際にも正当な権利者として疑義が生じないためにも(住所が違う場合、裁判所や相手方に他人の権利だと思われ、それに対して対応が必要となります。)、住所が変わった時には、弁護士や弁理士に依頼して特許庁に対する住所変更手続を行っていたほうが良いでしょう。

 なお、特許庁に対する住所変更は出願中と登録後では手続が異なります。出願中であれば、出願人毎に識別番号(ID番号のようなもの)が付与され、その番号で管理されているため、複数出願があっても住所変更の料金はかからず一括して変更ができます(会社の名称が変更した時も同様です。)。登録後は、識別番号ではなく登録の権利毎に管理をするため、商標権を特定して手続を行うことになります。

商標権の移転登録申請・使用権の設定登録申請

 商標の譲渡(出願中は名義変更)については特許庁への登録が効力発生要件となっています。したがって、単に商標権の譲渡契約を結んだだけでは、正当な権利者になったとは言えません。登録をすることを忘れないでください。

 商標の譲渡においては、指定商品・役務の一部のみ譲渡する場合やその商標にかかる指定商品・役務全てを一括して譲渡する場合など色々な方法があります。余談ではありますが、譲渡をする権利者が譲渡の対象となっている商標に類似する商標を複数持っている場合には、第三者に譲渡をした後、当該譲受人が、権利者の他の類似する商標に類似するような形(つまり、譲渡した商標とは少し違った態様)で使用していないか、それによって自社の商標に混同が生じたり不利益になっていないかを確認しておいたほうが良いかと思われます。

 なお、一般承継(相続、会社合併等)の場合は、上記の商標譲渡契約等による譲渡とは手続が異なりますので、ご注意ください。また、商標の譲渡に関連してよく質問を受けることとして譲渡対価が挙げられますが、譲渡対価はその商標が有する価値によって大きく異なってきます。お互いの意見が食い違い最終的に折り合えず(権利者は少しでも高く、譲渡を受ける側は少しでも安くというのは当然のことです。)、せっかくの商標権の譲渡契約が成立しないことも想定されます。そういったことについては、弁護士や弁理士等の専門家によく相談した上でその商標がもつ価値を的確に見極めて慎重に行うことをお勧めします。 商標権の譲渡については、「商標権の譲渡」にも記載しておりますのでこちらをご覧ください。

 その他、商標のライセンスを受けた場合、ライセンスを登録する必要があります。商標法上は、通常使用権、専用使用権という形が用意されており、特許等とは異なりライセンス契約を締結したとしても第三者に対抗することはできません。この点は留意が必要です。ライセンス契約については「商標ライセンス」にて別途説明しております。

商標権に対する質権や譲渡担保権の設定

 商標権も財産権ですので、質権や譲渡担保を設定することができます(譲渡担保の場合、条文上の規定はありません。)。但し、商標権(専用使用権、通常使用権)を目的として質権を設定したときは、質権者は契約で別段の定めをした場合を除き使用することができません(商標法第34条)。

 商標権に関する質権設定や譲渡担保設定は申請する数が多くないためあまり行ったことがある専門家も少なく、そもそも質権、譲渡担保というのがどのようなものであるのかということを理解していないケースもあります(質権は民法に規定があり、譲渡担保については明文がありません。)。質権、譲渡担保の意味、その効力等を正確に理解したうえで、当事者間の契約内容を確認し(場合によっては契約書作成、修正し)、それに基づいて必要なものを記載して特許庁へ登録することが必要となります。

 弁護士は質権、譲渡担保権についての知識が豊富ですので、これらの権利の設定については、契約書作成と併せて弁護士へ依頼されるとよいかと思います。

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