わが国の商標法では、先願主義(先に出願した者が優先)を採用し、出願時点では実際の商標の使用を問わないため、他人の商標を先取り出願し、後日、当該権利に基づいて商標ライセンス・商標権の譲渡などを要求するケースがまま見られます。当事務所にも、かかる権利に基づいてライセンス料を要求されているケースや不当に高額の譲渡を要求されている相談がよくあります。いわゆる、商標の不正取得といわれるものです。

 先取りの対象が未登録の周知著名商標であれば比較的対応は容易なのですが、周知性が微妙な未登録商標の場合は結構大変であり、周知著名な商標は登録しているのが通常ですので、ご相談に来られるのは商標の周知性が微妙なケースが多いのが実情です。

 基本的には、弁護士が入って相手方と交渉したり、相手方登録商標の消滅させる、すなわち、登録商標の無効理由を探して無効審判を請求をするのか、商標の不使用や不正使用の取消理由を探し取消審判を提起するというのがオーソドックスな対応で、その他に商標権侵害訴訟になった場合に備えて先使用権等の抗弁や権利濫用の抗弁の立証の準備をすることで対応するほかありません。その他方法論としては、商標権侵害差止請求権不存在確認訴訟の提起も考えられます。商標権侵害訴訟提起をされれば、弁護士代理にて上記無効、先使用、権利濫用の抗弁等を主張しつつ、無効審判・不使用・不正使用取消審判を並行して請求するなどして対応するほかありません。

 商標の無効理由としては3条1項3号(商品の品質等)、4条1項11号(先願登録商標と同一類似)4条1項10号(未登録周知商標と同一類似)、15号(著名商標と混同)や19号(不正目的で外国周知商標と同一類似)などが代表的ですが、商標の不当取得については、さらに、3条1項柱書(使用意思)や4条1項7号(公序良俗違反)違反なども検討する必要があります。

 但し、4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は公益的観点から判断されることが多く私益的な目的での適用についてはハードルが高いといえます。どちらかというと権利濫用としての主張のほうがしっくりくると思います。また、3条1項柱書では「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることが要求され、使用していない場合には具体的な使用意思が必要とされており、これを立証していく必要があります。4条1項7号や3条1項柱書違反の商標無効理由については、相手方との関係など十分にヒアリングした上で、効果的に主張していく必要があります。 

使用意思に疑義がある場合

 弊所には、商標の使用意思に疑義のある権利者から商標の譲渡交渉や商標ライセンス交渉をして欲しいというご相談も舞い込んでくることがあります。

 確かに商標権は財産権ですから、商標権に基づいて収益を上げるという点では間違っていないと思います。しかし、商標に財産的価値があるのはそこに業務上の信用が化体しているからです。まだ仮に業務上の信用が化体していないとしても、将来業務上の信用が化体することを前提として商標登録が認められているのです。近い将来において使用意思がないのに業務上の信用が空っぽの商標をちらつかせ、商標のライセンスや譲渡を迫るというのは法目的に沿うものではありません。自ら商標を使用して業務上の信用を蓄積する、これが法の大原則です。

 そのため当事務所では、現実に使用していない商標に基づく権利行使(譲渡交渉・ライセンス交渉含む。)については厳格に判断しており、かかる相談につきましては具体的使用意思が信憑性のある客観的証拠に基づいて認定できる場合しか受任していない点、ご理解をお願い致します。