インターネットと商標権侵害

 インターネットの発達と共にインターネットに関連する商標権侵害に関する弁護士への相談が激増しております。インターネット上の商標権の問題としては、ネット上の仮想店舗における商標権侵害の問題、商標に絡むドメイン関連、HP構造(メタタグ、タイトルタグなどにおける商標権侵害)関連、ネット広告(アフィリエイト広告、検索エンジンの有料広告等)関連等、商標に絡む弁護士への相談は多岐に渡ります。

ネット上のモールと商標

 仮想店舗における商標権侵害の相談としては、たとえば、楽天・ヤフー・amazon等が提供するインターネットショッピングモールに出品、出店した方から様々な相談が寄せられています。それぞれのモールには、その出品出店形態に特徴もありますので、商標権侵害か否かという点についてもモールの特徴を理解した上で判断する必要があります。また、メルカリやヤフーオークションに絡んだ商標の問題もご相談を受けることもあります。

ドメインと商標

 ドメインに関するトラブルは、他人の商標を一部に含んだドメインを使用しているケースが多いです。ドメイン取得は早いもの勝ちであり、第3レベルドメイン(.comや。jpの部分)が異なり、それ以外は全く同じものを取得することもできます。また、日本語ドメインも存在するため、他人の登録商標をそのまま含む日本語ドメインを取得されるケースもあります。悪意の取得への対応としては任意の交渉にて放棄や譲渡を求め、ダメなら紛争処理仲裁機関に対して申立をすることで取消や譲渡を求めたりすることになります。また、裁判手続を利用し不正競争防止法2条1項12号(ドメインの不正取得、使用等)を根拠に使用の差止等を求めることもあります。また、ドメインが自他商品役務識別機能を発揮するような形で使用されているようなケースでは商標権侵害となると判断された裁判例もあります。ドメインの問題の詳細については後述します。

メタタグと商標

 HP構造に関連するものとして有名なものは、メタタグ中に他人の登録商標を組み込んで侵害とされたものがあります。これはメタタグキーワード中に入力したものではなくメタタグディスクリプション中に組み入れた事件です。ディスクリプション部分は検索エンジンにおいてタイトルの下にサイトの説明文として表示されるものであり、視認することができるため自他商品識別機能を発揮し得るものであり、その場合には商標権侵害となり得ます。一方、メタタグキーワード自体は画面上表示されず直接視認されないため、これが商標権侵害となるかについては議論のあるところです(この点を否定した裁判例が複数あります。)。もっとも、キーワード部分に他人の登録商標を入力しているようなケースでは、HP中の表示領域のいずれかの部分にも同様のキーワードが使用されているケースが多く(そうでないとSEO対策として効果が薄い。)、その点を捉えて商標権侵害として対応することが多いかと思います。

ネット上の広告と商標

 ネット上の広告関連では、現在アフィリエイト広告が盛んに行われ、SEO対策として商品紹介の文章中にライバル会社の有名な商品名を入れ込んでいるものが結構見受けられます。また、検索エンジン会社が提供する有料広告(アドワーズ等)において、他人の登録商標を検索ワードに指定することも行われているとの相談もよくあります。これらネット広告に関しても商標の問題を生じ得るものですので注意が必要です。

 

 インターネット上の商標の問題は多岐にわたりますので、判断に迷われ、ご相談をご希望の企業様におかれましては、ご相談フォームを通じて弁護士までお問合せください。

ドメインと商標権侵害

 URL中に登録商標が含まれるようなケースで商標権侵害となるか否かはケースバイケースです。また、ドメイン名の部分に他人の登録商標を使用している場合には商標権侵害の他、不正競争防止法に基づいて差止請求等が可能となる場合があります。URLとドメイン名を混同している方もいらっしゃいますので、ドメイン名とURLの関係を最初に説明し、その後、URLに関する商標権侵害の考え方を説明します。

ドメイン名について

  ドメイン名とは、インターネット上の住所表示のようなものであり、より詳細に言えば、インターネット上のコンピューターに対して数字として割り振られた場所を特定するためのIPアドレスを文字列に置き換えたものをいいます。不正競争防止法2条9項においてもこれを包含するような定義規定が設けられております。

   この法律において「ドメイン名」とは、インターネットにおいて、個々の電子計算機を識別するために割り当てられる番号、記号又は文字の組合せに対応する文字、番号、記号その他の符号又はこれらの結合をいう

  ホームページアドレス(URL)の場合のドメイン名とは、「http://」の後の通信形態を意味する「www」の第4レベルドメインから、第3レベルドメイン、第2レベルドメイン、そして、分野別(gTLD: generic TLD、たとえば.com)と国コード別(ccTLD: country code TLD、たとえば.jp)が存在するトップレベルドメイン(TLD)までの文字列を意味します。実際、民事裁判においても、ドメイン名について裁判所はJACCS事件において以下のように判示しております。

 ドメイン名は、例えば、「http://www.abc.co.jp」のように表記され、この場合、「jp」の部分が第一レベルドメインであり、右例では日本を意味し、「co」の部分が第二レベルドメインであり、登録者の組織属性を示しており、右例では一般企業を意味し、「abc」の部分が第三レベルドメインであり、「http://www.」の部分は通信手段を示している(なお、本件では、第三レベルドメインをドメイン名と呼ぶ場合もある。)。

  以上のとおり、ドメイン名はURLの一部であってイコールではありません。他人のドメイン名と同一類似のドメイン名を不正目的で取得等すれば、商標権侵害の理屈ではなく、不正競争防止法に基づいて対応が可能となります。他方で、URL中のドメイン名以外の部分に登録商標と同一類似の表記が使用されているようなケースや、不正目的まで立証できないような場合には、商標法に基づいて商標権侵害という構成で攻めることになります。

URL・ドメインに関する商標権侵害の問題

 URLは、通常は単にインターネット上のサイトの位置情報を表わすためのものに過ぎず(住所表示のようなもの)、URL中に登録商標を含んでいたとしても(ドメイン自体が登録商標、またドメイン以外の部分に登録商標等が含まれるケース)、原則として商標権侵害の問題は生じませんが、例外的に侵害となるケースも存在します。

 たとえば前記のJACCS事件では、不正競争防止法の事案ですが一般論として、「ドメイン名の登録者がその開設するホームページにおいて商品の販売や役務の提供をするときには、ドメイン名が当該ホームページにおいて表れる商品や役務の出所を識別する機能を具備する場合がある」と述べられ、また、別の事件であるヨーデル事件においても、「当該URLの文字列における使用も、商標としての使用に該当すると考える余地がある。」と述べられ、いずれもドメインやURLの使用が商標権侵害や不正競争防止法違反となる可能性があることを示唆しております。

 商標権侵害(不正競争防止法違反)となるかは事案に応じてケースバイケースとしか言えませんが、URL中の特定の一部分がHP中のコンテンツの内容と相まって、自分の商品やサービスと他人の商品やサービスと区別する機能を発揮するようなケースではやはり商標権侵害になり得ると言えます。たとえば、HP中に大きな文字でURL中と同一の表記を用いて、商品やサービスの宣伝広告をしているような場合や、明らかにHP中で当該文字の名声にただ乗りして宣伝広告しているようなケースには侵害とされることもあるでしょう。商標権侵害か否かについては、URL中のどの部分に登録商標と同一類似の表記があるのか、URL中の他の表記との相対関係、URLで表示されるコンテンツの内容、コンテンツ中の登録商標と同一類似標記の使用のされ方、URL中の表記が検索順位へとどう影響しているのか、などが総合的に検討され、URL中の表記が自他商品識別機能を発揮しているということになれば、商標権侵害となるといえるでしょう。